きゃああああ!
深夜の病棟に、悲鳴がなり響く。またか。私は、Bさんのもとへと向かった。Bさんは、病室で、排尿していた。
リハビリはいっさい拒否。勝手に歩いては、いつも転んでばかり。体が思うように動かないストレスで、しょっちゅうかんしゃくを起こす。Bさんは、とにかく手のかかる患者さんでした。「ご迷惑をおかけしてすみません!もう連れて帰りますから!」奥様も恐縮しっぱなしで、すぐにでも退院させようとする勢い。でも、私は「はいそうですか」とは言いませんでした。
Bさんは、いまの自分を受け入れられていません。そして奥様も、以前とはまったく人が変わってしまったパートナーを前に、どうすればいいのかわからないという状態。このまま自宅に戻っても、絶対にうまくいきません。その事実に目を背けたまま、退院させるわけにはいかないのです。
私はまず、なるべくBさんの自宅にちかい環境をつくるよう、リハビリスタッフにお願いをしました。テレビと低めのソファを用意し、そこに座ってもらう。Bさんは当然、1人ではソファから立ち上がれません。けれど、その作業をひたすら繰り返してもらいました。
もしかしたら、できるようになるかもしれないから。できなくても、いまの自分を受け入れてもらえるかもしれないから。
同時に、奥様には病院に泊まっていただきました。いま、Bさんがどういう状態か。どういう介護をする必要があるのか。それをきちんと理解した上で、それでも自宅で一緒に暮らせるか、もう一度しっかり考えてもらえるように。
私たちの取り組みが、どれほど影響したかはわかりません。けどBさん夫婦は、退院後、自宅でとてもうまくやっているそうです。大変なこともぜったい多いはずなのに、ふたり仲良く暮らしている。そういう報せを耳にすると、こころがあたたかくなります。
この北原リハビリテーション病院は、病院と自宅をつなげる場所。後遺症と付き合いながら、これからの人生を、いかに幸せに生きていくか。患者さんやそのご家族と話し合い、リハビリ計画を考える。医師、栄養士、作業療法士、理学療法士、相談員。様々な専門職と協力しながら、チームで計画を実行していく。患者さんのいまを診るだけじゃない。患者さんとそのご家族の、未来も診る。そういう看護もあるってこと。ここに来て、はじめて知りました。