Kitahara Japan Clinicでは訪問リハビリテーションも行っています。
カンボジアの家屋は良くも悪くも日本の家屋とは違い、どんな福祉用具があったら(実際にはほとんどないですが)患者さんが快適な生活を送れるようになるかを考えています。今回はカンボジアの患者さんの家屋環境についてご紹介したいと思います。
まずは貧困層の患者さんの住宅。カンボジアは下水道の整備ができていないため、雨季になると主要道路まで川のようになることがよくあります。したがって貧困層の患者さん達の住宅は、雨季の床上浸水を防ぐために高床式の2階建て住居が一般的です。1階は物置として使用し、2階で生活をします。生活の知恵から生まれたこの住居ですが、脳卒中などで障がいを持ってしまった患者さんにとっては非常に大きなバリアになってしまいます。リハビリテーションを受ける受けないに関わらず、階段を昇り降りする能力のない患者さんはそのまま2階から降りることなく、寝たきりとなってしまうケースが多いのです。
この問題は未だ解決の糸口が見つかっていません。お金がかかることはできませんし、はしご状の不安定な階段を患者さんを抱えて昇り降りをご家族にお願いするのも難しい場合がほとんどです。
クリニックにかかっている富裕層~中流層の脳卒中患者さんは訪問リハビリテーションのニーズも高く、週3~5回の高頻度で利用されている方が多くいます。訪問リハビリテーションは、自宅でのADL獲得が大きな目的となりますが、これも住宅環境によって大きく左右されます。
富裕層の住宅はまさに豪邸といったところが多く、段差さえなければ車椅子生活であっても困ることはありません。入浴は元々シャワーのみ、トイレも広いので車椅子での出入りも容易です。そのため、日本で住宅環境を考えるうえで大きなポイントとなる浴室とトイレは、富裕層の住宅では問題になることはほとんどありません。つまり、障がい者にとっては日本の住宅よりもはるかに住みやすい環境と言えます。また、彼らには常に2~3名の使用人がついているため、介助力は十分確保できています。たとえ障がいを持っていたとしても、生活するのに日本ほど苦労することはないと考えられます。・・・でもこれは裕福層に限ったこと。
中流層になると住宅環境は大きく変わってきます。2階以上を居室にしている場合が多いのですが、カンボジアの中流層の方が住んでいる住宅の階段は日本では建築基準法にひっかかる超急勾配です。これは、身体に麻痺がある人にとっては大きなバリアとなります。富裕層の方と違って使用人も少ないため、居室から出ることが難しくなってしまいます。ただカンボジアの慣習なのか、私たちが1階への居室を移動することをすすめても、ほとんどの場合は拒否されてしまいます。
日本で住宅改修を行うときは、トイレや浴室、玄関などの改修を行うことが多いですが、カンボジアの場合1~2階間の移動が問題になるため、改修も大規模なものになってしまいます。住宅環境に関しての課題は山積みですが、今後よりよい生活を多くの患者さんに送ってもらうために、よいアイデアを探していきたいと思います。
★こちらの記事は『現役理学療法士による、理学療法士を目指す人のための情報サイト「POST」』にも掲載されました。