カンボジア国内から変える「カンボジアのリハビリテーション医療」 ~ 第3回 <後編> ~

前回に引き続き、カンボジアの装具事業について紹介します。

カンボジアの首都プノンペンには装具が作れるNGO団体「Veterans International:VI 」と「Cambodia Trust:CT」があります。この2つの団体では長下肢、短下肢装具ともに作成していますが、素材は硬く厚い硬質のプラスチック1種類のみで日本のようにバリエーションはありません。日本で使用しているような良質な素材はカンボジアでは手に入りにくいからです。装具作成のプロセスは日本と同じように採型→仮合わせ→完成と段階を踏んではいますが、技術や知識の問題なのか設備の問題なのか、出来上がった装具は患者さんの足にフィットせず、ベルトの位置や足関節部の角度が不適切なものになってしまうことがほとんどです。恐らく、装具を作成するための評価能力が低いため、適切な装具の作成が難しいのだと思います。

また、患者さんが要望を出しても一切応じてもらえません。
実際に私がクリニックの患者さんの短下肢装具をオーダーした際、その患者さんに合った装具を作ってもらうためにいくつか要望を出したのですが、出来上がってきたものは全く違ったものでした。結局、その装具は患者さんの回復によくない影響を及ぼすと判断し使っていません。
日本では脳卒中の患者さん用に上肢、手指用の装具もありますが、そちらについてはカンボジアでは見たことがありません。作業療法士がいない国なので、上肢用装具がないのはそれが関係しているのだと考えられます。

車椅子やベッド、杖といったものは薬局などで多く売られていますが、そのほとんどが中国製。やはり品質がよいとは言えません。日本では色々な状態の方に対応できるよう調整が出来るものが多いですが、カンボジアで売られているリクライニング車椅子は背もたれの角度さえ調整できません。

日本で売っているような物はありませんが、逆に日本に売っていないようなアイデア商品は売っていることがあります。その1つがポータブル車椅子トイレ。車椅子の座面が一部外せるようになっていて、座ったまま排尿、排便ができるというようなアイデア商品。確かに効率的ではありますが・・・日本人の私としては患者さんがずっとトイレの上に座っているような感覚になるのではないかと思い、使う気にはなりませんでした。

このようにカンボジアでは適切な装具が手に入りません。装具があれば歩けるようになる脳卒中の患者さんも装具を使うことができず、歩くことを諦めなければいけない事態も起こってしまいます。

現在「途上国にリハビリ道具を届けませんか?」代表の岩田さんと協力し、カンボジアで日本の装具を使い始めようとしています。既にこの取り組みによって歩けるようになった脳卒中患者さんもいます。
私たちが取り組むこのプロジェクトへ興味・関心を持っていただける方が増えてくれることを願っています。(第4回<前編>へつづく)

★こちらの記事は『現役理学療法士による、理学療法士を目指す人のための情報サイト「POST」』にも掲載されました。