カンボジア国内から変える「カンボジアのリハビリテーション医療」 ~ 第2回 <後編> ~

前回に引き続き、カンボジアのリハビリテーションの現状を紹介したいと思います。今回はリハビリテーション医療格差について紹介いたします。

カンボジアでは医療の状況が富裕層~中間層と貧困層で大きく変わってきます。
富裕層~中流層のカンボジア人の多くは、高度な医療を求めてシンガポール、タイ、ベトナムなどに渡航します。カンボジアでは満足な治療ができないため、高いお金を払ってでも海外に行きたいというわけです。実際、タイやシンガポールでは適切なリハビリテーションが提供されている場合が多いです。ただし、中流層の方が多く渡航するベトナムだけは違います。ベトナムで入院していた患者さんが退院後に私達のクリニックを受診することがありますが、体中が褥創だらけの患者さんや足関節が拘縮してしまっている患者さんが多く、入院中から満足にリハビリテーションを受けられていないことが分かります。また、海外で適切なリハビリテーションを受けていたとしても、帰国後に継続して適切なリハビリテーションを受けることができないので、結局お金を払って海外の病院で治療を受けても廃用症候群となり、寝たきりになってしまう患者さんが多いようです。

反対に貧困層は海外へ渡航するお金がないため、カンボジアで医療を受けることになります。そこで、北原グループのNGO日本医療開発機構は病院スタッフの教育と貧困層への医療支援を目的にカンボジアの国立病院に介入しています。この病院を受診する患者さんのほとんどは貧困層の方々なので、カンボジアの病院ではどのような医療、リハビリテーションを受けているかを把握することができました。

この国立病院の脳神経外科に入院しているのは主に脊髄損傷、頭部外傷、脳卒中の患者さんで、入院中からのリハビリテーションが退院後の生活に大きく影響してきます。ここでは質がいいとは言えませんが、キネシオセラピー科というリハビリテーションを行う科があります。しかし私達が介入し始めた当初は、脳神経外科の医師がキネシオセラピー科にリハビリのオーダーを出さず、入院中の患者さんにリハビリテーションをほとんど提供していませんでした。その一番大きな理由は、リハビリテーションの必要性を理解していないことでした。リハビリテーションを受けていないので入院してから1度も起き上がることがないまま、自宅退院となる患者さんがたくさんいました。当然、自宅に帰ってもリハビリテーションを受けることはなく、寝たきりになってしまいます。
また患者さんの中には、病院に入院し続けるだけの支払い能力がないため、治療の途中で退院を余儀なくされる方もいます。そのような状態では、リハビリテーションを受けることも難しくなります。

これまで約2年間、この病院に介入し続けてようやく脳外科病棟の医師や看護師がリハビリテーションの必要性を理解してくれるようになってきました。今ではキネシオセラピー科にオーダーを出すようになっており、私達は直接介入するのではなく、病院のリハビリスタッフの質を上げるために教育を行っています。私達が介入していなければ、おそらく今でも、この病棟で患者さんがリハビリを受けられるようにはなっていなかったのではないかと思います。

このようにカンボジアではお金のあるなしにかかわらず適切なリハビリテーションを受ける事が難しいのです。(第3回<前編>へつづく)

★こちらの記事は『現役理学療法士による、理学療法士を目指す人のための情報サイト「POST」』にも掲載されました。