第5回スタッフインタビュー(理学療法士 亀田)

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第五回スタッフインタビュー

今回はカンボジアで広報を担当する亀田佳一理学療法士に、skypeインタビューを試みました。途上国共通のネガティブな側面を面白がってプラスに変えていく亀田語録にご注目ください。

(聞き手:NGO日本医療開発機構 個人会員 清水 眞理子)

 

 

 

 

 

 

 

亀田佳一(かめだよしかず)

1976年生まれ

1999年大阪工業大学卒業

2006年国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院卒業

2006年北原国際病院入職

 

――カンボジア・プロジェクトに参加されたきっかけからお聞かせください。

亀田:私は大学で建築学を専攻していましたが、自分が交通事故に会いリハビリを受けたことがきっかけで医療の世界に入ることになりました。

2006年、北原国際病院(当時、北原脳神経外科病院)に入職、理学療法士として患者さんの回復をサポートするためリハビリテーションを行う傍ら、リハビリテーション科のWEBサイト製作、海外向けの法人プロモーションビデオなど、広報、製作関係の業務も行ってきました。

カンボジア現地でプロジェクトに関わることになったのは理学療法士の先輩に誘われたことが直接のきっかけでしたが、カンボジアに来る2年前から、実はビデオ製作でこのプロジェクトに関わっていました。現在はカンボジアに常駐し、リハビリテーションスタッフ兼広報担当をしています。

<<日本の医療の質の高さをカンボジアの人に知ってもらうために>>

亀田:カンボジアでの日本は、JICA、日本製の家電の影響で「親切」、「品質に信頼がおける」というプラスのイメージを持たれています。しかし、日本医療の質の高さについては残念ながらあまり知られていません。カンボジアの方が高品質だと信じている医療は、華美な装飾とサービスを提供しているタイやシンガポールの医療です。

まずは日本の医療の質の高さと丁寧な接遇をカンボジアの方々に認識していただく必要があると考えて広報活動を行っています。

以前から、NGO日本医療開発機構では、カンボジアのプライベートクリニックで手術活動、カンボジアの国立コサマック病院に脳神経外科集中治療室を設立、コサマック病院での患者さんへの臨床介入を行ってきました。また当団体の理学療法士はTSMC(Technical School for Medical Care:カンボジアで唯一、理学療法士を養成している医療技術者養成校)で週1回の講義を行っており、コサマック病院ではTSMCの学生を実習生として受け入れ、実習指導も行っています。回復した患者さんやご家族、指導した学生達には大変感謝されています。

広報担当としてはこれらの活動をなんとかカンボジアの方々に知ってもらわなければなりません。広報媒体は日本と同様に、新聞やテレビでの報道が有効です。カンボジアでは営利団体の活動を放送、掲載してもらう場合、報道扱いであっても有料で結構な費用が発生します。しかしNGOの活動の場合は無料で放送、掲載してもらうことができます。NGO活動を報道してもらうことは、お金をかけずに日本の医療の認識を高める有効な手段ととらえています。

 

――治療をするにあたってのご苦労はありますか?

亀田:通訳をいれると単純に計算しても患者さんとのコミュニケーションに倍の時間がかかります。また通訳者が、こちらが話している意図を理解してくれないことが多いので、欲しい情報を患者さんから引き出すのにかなり時間がかかります。これは外国で医療行為を行う時には必ずつきまとう問題だと思います。言葉の問題は今後、解決していかなければならない大きな問題の1つです。

また、もしも言葉が直接通じたとしても説明の際、言葉を選ぶのがむずかしいと感じています。なんせクメール語(カンボジア語)には脳や脳卒中という言葉自体が存在しないんですから。疾患や脳に対する知識が乏しく、高血圧で片麻痺が起こると思っている患者さんも多いです。日本人とは基礎的な疾患に対する知識量がかなり異なるため、脳卒中の基本的な説明にも日本で行う何倍も時間がかかります。

 

 

 

 

 

また医療に対する知識の乏しさは、カンボジア人リハビリテーションスタッフにおいても同様のことが言えます。脳卒中のリハビリテーションには適切な感覚、適切な筋の活動を伴った運動を学習していくことが必須なのですが、これには患者さん自らがリハビリテーションにモチベーションをもって、運動の練習をすることが必要です。我々、理学療法士はその練習をサポートするわけです。

ところがカンボジア人のリハビリテーションスタッフはそういった知識も持っていないので、麻痺している部位をマッサージするだけで、動いてリハビリテーションをするという考えはありません。患者さんもリハビリテーションはマッサージのようなものだと認識してしまっているため、まずそこから理解してもらわなければならないのです。

ただリハビリテーションは言葉ではなく身体で感覚的に伝えることが多いこと、特別な道具がなくても行えることが他の医療職種と大きく違います。そのため、カンボジアという環境でも、他の職種より日本の医療を提供しやすいと考えています。

 

<<「いい加減だから」とため息をつくぐらいなら行動しようと思う>>

亀田:カンボジアの方々は時間や約束に非常にルーズです。すごくいい加減で腹が立つことも確かにあります。そもそも、ルールがないことが多いと感じています。しかしルールがない故に日本ではとても大変な事があっさりできてしまったりもするんです。

例えば、新聞やテレビ局の報道チーフに、電話をかけたその日に会えます。それで次の日に報道してもらうこともできちゃいます。日本ではなかなか難しいでしょう。でもルールがないからこそ、やってみたら出来ちゃったということが多いです。カンボジアの方々がいい加減で困ることもありますが、行動すれば日本ではできないことができることがあるんです。

昨年5月に初めてカンボジアに来た時は、現在、事務所として使っている物件が建っているだけでした。まず、庭の植栽から始め、建物の内装、名刺、看板、リーフレットなど、すべて一から作りました。

これほど仕事に対する視野を拡げてくれる環境は他にありません。特にカンボジアに来てからは臨床以外の業務をとおして医療の本質を見つめ直す機会が多くなったと思っています。理学療法士の仕事はとても大切だと思っていますし、日本でも一生懸命やってきましたが、カンボジアでは、これまで行ってきた医療の枠にとらわれず、未経験の事にも臆することなく挑戦していきたいと思います。

やる気があれば、とてもやりがいがある仕事です。是非、後輩達にも、チャレンジしてほしいと思っています。