カンボジア国内から変える「カンボジアのリハビリテーション医療」 ~ 第2回 <前編> ~

今回は、カンボジアのリハビリテーションの現状を紹介したいと思います。

カンボジアにもリハビリテーションがない訳ではありません。ただ、適切なリハビリテーションを受けられる環境が整っていないのです。特に脳卒中後のリハビリテーションに関してそれを強く感じます。
日本では脳卒中の患者さんは急性期リハビリテーションを終えた後、回復期リハビリテーションを長期間受け、自宅に帰った後も介護保険などを利用し、リハビリテーションを続けるのが一般的な流れかと思います。しかし、私がカンボジアに来た2年前は、脳卒中後のリハビリテーションを受けることすら一般的ではありませんでした。そのため、富裕層でも日本のような適切なリハビリテーションを受けることはできません。リハビリテーションの必要性の認識が低く、多くの方が脳卒中後、十分なリハビリテーションを受けられず、適切なリハビリテーションを受ければ歩けるようになるような方でも自宅で寝たきりになってしまっていました。

日本では脳卒中のリハビリテーションには医師、看護師、リハビリテーションの専門職である理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などがチームで介入するのが一般的です。しかしカンボジアには作業療法士や言語聴覚士を養成する施設がなく、リハビリテーション専門職種の資格は理学療法士のみです。その理学療法士の養成が始まったのも2009年と最近で、それまではキネシオセラピーというフランスから入ってきた療法が理学療法的な役割を担っていました。現在もその名残が強く残っていて、当の理学療法士自身でさえキネシオセラピーと理学療法の区別がつかない方が多いです。

フランスのキネシオセラピーはよく知りませんが、カンボジアで私が見たキネシオセラピーは主に整形疾患を対象にしており、マッサージや半ば力ずくの関節可動域訓練を行います。見ていて患者さんの関節が壊れちゃうんじゃないかとハラハラするくらい力ずくでした。平均年齢が若いカンボジアで、これまで脳卒中を発症する患者さんが少なかったことも影響しているかと思いますが、現地の理学療法士は脳卒中に対するリハビリテーションの知識が乏しいです。脳卒中のリハビリテーションでは運動麻痺などにより失った動作能力を再学習する必要があり、立ち上がりや歩行練習といった動作練習が必要です。しかしカボジアの多くのキネシオセラピスト達は患者さんをベッドの上に寝かせ、関節可動域訓練、マッサージを行うのみで動作練習を行いません。その結果、患者さんは廃用症候群となり、寝たきりになってしまうことが多いのです。

カンボジアにも医師、看護師はもちろんいますが、リハビリテーションの重要性を理解している人は少なく、チーム医療なんて夢のまた夢といった状況です。(第2回<後編>へつづく)

★こちらの記事は『現役理学療法士による、理学療法士を目指す人のための情報サイト「POST」』にも掲載されました。